Home / ファンタジー / 『男装の令嬢は男になりたい』 / 第12話 封印塔の謎の声事件 1

Share

第12話 封印塔の謎の声事件 1

Author: 米糠
last update Last Updated: 2025-12-27 06:00:11

 学舎の男子寮に帰ってきたセリウスを、フィオナが待ち構えていた。

 月明かりに照らされた廊下で、彼女は壁にもたれ、まるで舞台に上がる前の役者のように涼やかな笑みを浮かべている。

「お帰り、セリウス。なんだかご機嫌のようね?」

 不意に声をかけられ、セリウスは肩をびくりと揺らした。

 胸の奥には、まだ酒場での打ち上げの余韻が残っていたのだ。思わぬ成功と仲間たちとの笑い声。そのせいで足取りも軽かったが――フィオナの鋭い視線に射抜かれると、妙に居心地が悪くなる。

「ああ、フィオナ。どうかしたかい?」

「五人で宴会でもしてきたの? 私は仲間はずれなのね?」

 彼女は片眉を上げ、冗談めかした口調で言った。

 だがその目の奥には、わずかな嫉妬とも探りとも取れる色が見え隠れする。

「そういうわけじゃあないけど、俺達、今日から冒険者パーティを組んで訓練をしてるんだ。それで、思わぬ大金が入ったんでお祝いってわけ」

 セリウスは気まずそうに頬をかきながら答えた。

 酒場での盛り上がりを思い出すと顔が緩むのを、必死に抑える。

「あーら、うらやましい。あなた達って強くなることに貪欲なのね?」

 フィオナはつややかな黒髪を指で弄びながら、意味ありげに微笑む。

 まるでセリウスの胸の内を覗き込むようなその仕草に、彼は思わず目を逸らした。

「まあ、強くはなりたいね」

 言葉を選びながら、静かに答える。

 強くならなければならない。己の秘密を守り、いつか目的を果たすために。

「ふーん。まあ、それは良いとして、ちょっと相談があるのよね?」

「え! 私に相談?」

 思いがけない言葉に、セリウスは目を丸くした。

 男装したセリーナ(セリウス)にとってフィオナは、どこか特別な存在。男のくせに、制服以外の時は女装しているセリウスとは真逆な人(制服の時でも化粧はしているが)。心は女だと言い切る彼女(彼)は、美しさも気高さも、そして謎めいた雰囲気も持ち合わせている魅力的な女性だ。そんな彼女が、自分に「相談」を持ちかけるなんて。
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 『男装の令嬢は男になりたい』   第41話 二度目のダンジョン探索 7

       五人がさっきの通路へ戻るとそこにスケルトンはいなかったが、今来た道の背後から、湿った空気を切り裂くように、がしゃり、がしゃりと乾いた音が押し寄せてきた。  どうやら前の道は通れないとみて、こっちの道から追いかけてきたようだ。  狭い通路の奥、ランタンの灯りの端に白い影が揺れ、やがてスケルトンの列がずらりと現れる。「……数、けっこういるな」  アランが低く呟いた。  視界の限りでも十体以上、さらに奥から続々と現れている。「けど、まとめて来られるわけじゃねぇぜ。この通路なら出口で袋叩きにできる」  オルフェが大剣を振りかぶり、足を踏ん張る。 「よし、俺が正面で壁になる!」「じゃあ、俺はその右側から援護だな」  セリウスが長剣を抜き、オルフェの右を守る位置に立つ。「俺は通路の右端、セリウスの横だ。骨どもを短槍で狙ってやるさ」  リディアが短槍を構え、素早く位置を取った。「僕は……左の端」  レオンが息を整え、長槍を構える。レオンの右にはアランが陣取った。 やがて最前列のスケルトンが金属音を立てて剣を振りかざし、狭い通路から飛び出してきた。「来やがったなァ!」  オルフェの大剣が唸りを上げ、骨の戦士を粉砕する。  砕け散る音を皮切りに、次々とスケルトンが雪崩れ込む。 アランが鋭く叫んだ。 「崩れるな! 囲みこんで迎え撃て!」 その号令に合わせて、五人は扇のように陣を組む。  刃と骨の衝突音が広間に響き渡り、火花が散った。 オルフェの大剣が横なぎに走り、二体目のスケルトンの胴を粉砕する。砕けた骨が飛び散り、湿った石床に転がった。  だが、後ろから次々と押し出されるように、骸骨の軍勢は途切れなく現れる。「数が多い……!」  セリウスの剣が白刃を閃かせ、迫る槍を弾き飛ばす。間髪入れず逆袈裟に振り下ろし、骸骨の頭蓋を砕いた。「通路が狭いのが幸いだな……!」  リディアは短槍で素早く突き、骨の膝を狙ってへし折る。倒れ

  • 『男装の令嬢は男になりたい』   第40話 二度目のダンジョン探索 6

    「……空気が違うな。長いこと閉ざされてた場所かもしれん」  アランが低くつぶやく。「こりゃますます怪しいな。罠とかねぇだろうな」  オルフェが冗談めかして言うが、その声には緊張が混じっていた。「罠はおれにお任せだぜ」  リディアが仲間を見渡し、先頭に立つ。 狭い通路は人一人がやっと通れる幅で、天井は低く、湿った石が滴りを落としていた。靴底が水を踏み、ぴしゃりと音を立てる。  奥へ進むにつれて、入り口からの光も見えなくなり、ランタンの光が唯一の頼りとなった。 しばらく歩くと、リディアが再び足を止める。 「……見ろ。壁に刻まれてる」 ランタンの明かりに照らされ、苔むした石壁に古い文字のような彫り込みが浮かび上がった。擦れて判読は難しいが、円形の紋章と、骸骨のような図形が描かれている。「こりゃ……不吉な感じだな」  オルフェが眉をひそめる。「魔術的な封印かもしれない」  アランが険しい表情を見せた。 レオンはおそるおそる近づき、指先で石の表面をなぞった。 「……何かの封印結界の痕跡ですね。でも……完全に消えてます。だいぶ昔に解除されたものかと」「それでスケルトンがたくさんいるのか? 何とか封印結界を復活できないのかな」  セリウスが呟き、仲間の顔を見渡す。 レオンの指先が石壁をなぞり続ける。古い線刻の奥には、まだかすかに魔力の残滓が漂っていた。 「……やっぱりだ。この魔法陣、スケルトンを呼び出す源を封じたものみたいです」「つまり、この壁の向こうに何かがいるってことか?」  アランが声を潜める。「はい。正確には、居るというより有るですね。スケルトンを呼び出す魔力源……。ここを崩して取り出してみましょう」  レオンの声はかすかに震えていた。 アランは即座に判断を下す。 「壊せるのか? 岩じゃないのか」「一見、岩のように見えますが、固まった土と言ってよいでしょう。きっと掘れるはずですよ。たぶん大きな魔石のようなも

  • 『男装の令嬢は男になりたい』   第39話 二度目のダンジョン探索 5

     轟音が地下空洞に木霊した。  スケルトンの群れが、一斉に突撃を開始したのだ。  甲冑の擦れ合う音、骨のぶつかる音、剣を振るう金属音……それらが渦を巻き、押し寄せる怒涛の波のように迫ってくる。「走れ!」  アランが剣を振り抜き、追いすがる一体の首を斬り飛ばす。  乾いた骨の山を蹴散らしながら、仲間たちは必死に階段を目指した。「《ライトニング・ボルト》!」  レオンの詠唱と共に、魔導書が眩い閃光を放つ。  雷撃が直線状に走り、十体近くのスケルトンをまとめて薙ぎ払った。  骨が黒焦げになり、甲冑が爆ぜる音が響き渡る。「いいぞ、レオン!」  オルフェが大剣を振り回し、崩れかけたスケルトンを叩き潰した。  だが、数は減ったようには見えない。むしろ波のように押し寄せてくる。「くっ……振り返るな! ひたすら走け!」  セリウスが仲間を鼓舞する。 背後では、リディアが必死にランタンを掲げ、暗闇を照らし続けていた。「この数……本当に終わりがあるのか!?」  オルフェが歯を食いしばる。 アランが冷静に叫ぶ。 「時間を稼ぐしかない! レオン、もう一発撃てるか!」「やってみます!」  レオンは震える指先で魔導書のページをめくり、再び詠唱に入った。 「――雷よ、奔れ! 《チェイン・サンダー》!」 雷光が連鎖し、骨の軍勢を次々と貫いた。  火花が散り、暗黒の広間が一瞬だけ昼のように照らし出される。  しかし、焼き切った骸骨の後ろから、さらに無数の亡者が這い出してくる。「まだだ、止まらない……っ!」  レオンが額から汗を滴らせ、よろめく。 アランが彼を支え、声を張り上げた。 「今のうちに階段を登れ! 俺とオルフェで食い止める!」「馬鹿言うな、全員で逃げるんだ!」  セリウスが反論するが、もう選択の余地はなかった。  スケルトンの軍勢はす

  • 『男装の令嬢は男になりたい』   第38話 二度目のダンジョン探索 4

     倒れた黒騎士の残骸を踏み越え、セリウスたちは祭壇の周囲を調べ始めた。  瓦礫に埋もれた一角で、オルフェが金属を叩くような音を響かせる。「おい、こっちに来てみろ!」  瓦礫をどけると、黒ずんだ鉄の宝箱が現れた。  鎖で厳重に縛られ、表面には古代文字のような刻印が施されている。「罠かもしれん。慎重にな」  アランが剣を構えて警戒し、リディアが屈み込んで鍵穴を覗き込む。「……ふむ、魔力の封印付きだな。けど、そう強力な仕掛けじゃない」  器用に工具を差し込み、かちりと音を鳴らす。  鎖が解け、箱の蓋が重々しく開いた。 ――ぱあっ。 中から光が溢れ出し、洞窟の壁を黄金色に照らす。  中に収められていたのは、煌びやかな装飾を施された指輪と、青白く輝く魔石だった。「こ、これは……!」  レオンが思わず手を伸ばす。 「きっと古代の魔導具ですよ。外に出たら鑑定士に見てもらいましよう!」「本物の古代の魔導具か!? こんなところに、そんなお宝が眠ってるのかよ……!」  オルフェが目を丸くする。 セリウスは宝を手に取ると、仲間たちに視線を向けた。 (もしかしたら、『性転換の魔道具』かもしれない。いや、そんな簡単に出会えるはずはないか……) 「分け前は帰ってから相談しよう。今は、無事に生還するのが先決だ」 五人は互いに笑みを浮かべ、束の間の達成感に浸る。  しかし、その背後で――祭壇の割れ目から、墨のように濃く黒い液体がじわりと滲み出していた。 じわり、と祭壇の割れ目から滲み出した黒い液体は、やがて土に吸い込まれることなく、地表を這うように広がっていった。「……なんだ、これ」  オルフェが剣先で突こうとした瞬間、液体はしゅうっと煙のように揮発し、消え去った。「魔力の残滓……?」  リディアが険しい顔で呟く。 アランが胸で腕を組み眉根を寄せる。 「黒騎士を倒したことで、別の何かが目覚めた可能性があるかもな」

  • 『男装の令嬢は男になりたい』   第37話 二度目のダンジョン探索 3

       祭壇から噴き出す瘴気がさらに濃くなった。  その中で、ひときわ大きな影がゆっくりと立ち上がる。 ――ガシャリ。 全身を黒ずんだ甲冑で覆い、両手には大剣を握った巨躯。  眼窩には紅蓮の光が燃え、普通のスケルトンとは明らかに異なる威圧感を放っていた。「っ……でかい……!」  オルフェが思わず息を呑む。 「こいつ、他の骨とは違うぞ!」 黒鉄のスケルトン――その剣がゆっくりと持ち上がると、周囲の骸骨たちが一斉にひれ伏した。  まるで王を讃える兵のように。「……隊長格か、それとも守護者か」  アランが歯を食いしばる。 「どちらにせよ、あれを倒さなきゃ祭壇は壊せない!」 黒騎士スケルトンが低く唸るように顎を震わせ、大剣を地に叩きつけた。  ドン、と震動が走り、周囲の骨がバラバラと組み上がり、新たな兵が立ち上がる。「また呼び出した!?」  リディアが舌打ちする。「雑魚はレオンとリディアで抑えてくれ! 私とセリウス、オルフェは正面の黒騎士スケルトンだ!」  アランが即座に指示を飛ばした。 「援護は任せた!」「行くぞッ!」  セリウスが咆哮し、仲間たちが一斉に突撃した。 黒騎士の大剣が横薙ぎに振るわれる。  セリウスとアランが同時に剣を交差させて受け止めるが―― ガギィィィィンッ! 凄まじい衝撃に、二人の足が床を滑り、石畳に亀裂が走った。「おっ……重すぎる!」 「根性で……押し返す!」 オルフェが背後から渾身の一撃を叩き込む。  しかし黒騎士の甲冑は厚く、火花を散らすだけで傷一つつかない。「ちっ……ただの骨じゃねぇな!」 その隙に、リディアの投げナイフが飛び、黒騎士の眼窩を正確に撃ち抜く。  だが、紅蓮の光は一瞬揺らめいただけで、すぐに燃え盛るように戻った。「効かない……!?」「核があるは

  • 『男装の令嬢は男になりたい』   第36話 二度目のダンジョン探索 2

       四体のホブゴブリンを退けたあとも、五人は足を止めなかった。  通路は次第に狭くなり、やがて下り階段が姿を現す。苔むした石段を降りるにつれて、空気は一層冷たくなり、吐く息が白く濁るほどだった。「……寒い。ここ、さっきまでと全然違う」  リディアが両腕をさすりながら周囲を見渡す。「空気が淀んでるな。湿気じゃなく……死んだものの匂いだ」  アランが険しい目で言った瞬間――。 カラン……カラン……。 通路の奥から、不気味な金属音が響いた。  それは規則的で、まるで兵士の行進のようだった。「おい……聞こえるか?」  オルフェが大剣を構え直し、低く唸る。 やがて闇の中から現れたのは、骨と錆びた甲冑。  生者の肉を持たず、眼窩に青白い光を宿した骸骨の兵士――スケルトンだった。「なっ……骨が、動いてる……?」  レオンが目を見開く。震えが声に混じっていた。 スケルトンは剣と盾を構え、ぎこちなくも迷いのない足取りで迫ってくる。  その姿はまさしく、死してなお戦場に立つ兵士。 ――そして、その空洞の眼窩がギラリと光り、通路の奥からこちらをまっすぐに捉えた。 「……見つかった!」  セリウスが息を呑む。青白い光が、彼らの存在を敵と認識した証だった。 骨の擦れる不気味な音を立てながら、スケルトンは一斉に顔を上げ、盾を鳴らして前進を始める。  その光景に、背筋を凍らせるほどの殺意がはっきりと伝わってきた。「くるぞ!」  アランの叫びと共に、最前列のスケルトンが斬りかかってきた。 ガキィィンッ――!  鋼と鋼が打ち合う甲高い音が、冷たい石壁に反響する。  セリウスが長剣で受け止めたが、衝撃は生者の武人と変わらぬ重みを持っていた。「うっ……重い!? ただの骨じゃない……!」  刃を押し返そうとするが、骸骨の兵士は眼窩の光を揺らめかせ、無感情のまま押し込んでくる。 その隙を突くように、後方から別のスケルトンが

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status